非線型半群理論に基づく放物型方程式の解析


研究概要
「非線型放物型偏微分方程式」は広範な物理モデルを包括する分野であり,流体現象を記述する Navier-Stokes 方程式や熱対流方程式,或いは特異拡散モデルといった重要な応用例があります。私 はこれらの方程式を非線型半群理論の立場から解析し,well-posedness(解の存在,一意性といった 数理モデルの『妥当性』)の検証,及び時間周期解やアトラクターの構成について研究をしています。
数理モデルを導出する際,対象の系の「エネルギー」を設定しそのエネルギーを最小化させるよう に状態が時間変化するという原理に基づく方法があります。このようにエネルギー変分原理に基づい て得られた勾配流方程式の多くは,劣微分作用素を主要項とする Banach 空間上の常微分方程式(+ 摂動項)の形に抽象化することができます。このタイプの抽象発展方程式は高村(1967)を皮切りに精 力的に研究され,現在に至るまで日本人研究者の寄与が大きい一分野を形成しています。
私はこれまで,劣微分作用素に基づく非線型発展方程式,とくに単調性と呼ばれる構造を持たない 摂動項(非単調摂動項)を含む方程式に関する研究を進めてきました。具体的な成果としては正則性 評価の新手法を抽象論の枠組みで導出することに成功しています。またこの応用として,多孔質媒質 中の二重拡散対流現象と呼ばれる流体現象を表した方程式系に関する解析も行ってきました。
今後も劣微分作用素を主要項とする非単調摂動項付きの非線型発展方程式の解析を通じて,非線型 放物型方程式への抽象的・包括的なアプローチを行い,これらに通底する構造の探求に取り組みたい と思っております。また,具体的な現象を記述する勾配流方程式に基づいて導出された数理モデル, あるいはこれに付随するエネルギー変分問題についても積極的に取り組み,抽象理論へのフィードバ ックを目指したいと考えています。
アピールポイント(技術・特許・ノウハウ等)
Well-posedness は数理モデルとして最低限満たしていなければならない性質を総称したものです。
また時間周期解やアトラクターの存在検証は数理モデルの安定性(外乱・ノイズが生じたとしてもあ る程度同じモデルを運用することができる)を保証するものです。そのような安定性は数値シミュレ ーションの結果が望んだ解に上手く収束することとも深い関係があることが知られています。その為 私の研究は構築された数理モデルそのものや数値計算に対するある種の「正当性・妥当性・信頼度」 を基礎科学の観点から保証するものと位置づけられます。
また学部 4 年間は物理学科に所属しておりましたので,数理モデルに対する物理的背景の理解,あ るいは物理学に関する基礎知識については齟齬無く行うことができると思います。
応用可能な分野
エネルギー変分原理, 勾配流方程式に基づく数理モデルに対する基盤研究について広く応用可能 だと考えています。具体的には退化拡散現象モデル,流体現象モデル等が挙げられます。