Hippoパスウェイ制御による腎癌治療への試み

研究概要
1.悪性度腎癌のゲノム解析と遺伝子解析
腎臓にできる癌の約80%を占める淡明細胞性腎細胞癌は、組織学的に低悪性度と高悪性度に分類され、その予後は全く異なる。ゲノム解析により高悪性度腎細胞癌は14番染色体に欠失が認められ、SAV1遺伝子の発現低下が悪性化をもたらしていることが示唆された。細胞株を用いた実験により、SAV1遺伝子がコアコンポーネント(主要因子)の一つであるHippoパスウェイというシグナル伝達経路の異常(右図OFF)をもたらしていることがわかった。
2.Hippoパスウェイノックアウトマウス作成
SAV1遺伝子を腎臓特異的にノックアウトすると、腎尿細管の異型増殖がみられた(右図矢印)ことから、Hippoパスウェイの異常は腎癌悪性化に関わることが明らかになった。
3.Hippoパスウェイ制御薬剤の開発
Hippoパスウェイを正常に働くような薬剤を開発すれば、予後不良な高悪性度腎細胞がんの新たな治療法となることが予想される。そこで、既存薬剤や新規の薬剤を評価するシステムを開発し、さらにこれまで確立してきたノックアウトマウスへの応用を行っていきたい。
Hippoパスウェイの異常は腎臓だけでなく全身の多くの臓器の疾患や発癌などに関わっていることが知られてきた。そのため、Hippoパスウェイをターゲットとする薬剤開発により腎癌だけでなく他の癌治療や、Hippoパスウェイ異常による多くの疾患、例えば腎嚢胞性疾患、感染症、心疾患、神経疾患等、これまで効果的な治療法がない種々の疾患の治療法開発へ応用可能である。
アピールポイント(技術・特許・ノウハウ等)
・Hippo pathwayの腎臓特異的ノックアウトマウス(作成・解析)
・薬剤開発の評価系(作成中)
応用可能な分野
・腎癌以外の癌治療
・希少疾患等の治療開発