消化器癌の発生・治療および炎症性腸疾患に関する研究
研究概要
1.除菌後時代における胃癌リスクとなる因子の同定を目指す研究
近年、ピロリ菌を除菌することで胃癌症例は減少傾向にある。しかし除菌治療後の胃粘膜にも胃癌発生するリスクが残っていることが近年明らかとなってきた。当科ではこれまで消化器癌の発生や進展に関わるシグナル伝達経路(タンパク質リン酸化)やタンパク質メチル化の解析を行ってきた。そこで、除菌後の胃粘膜においてシグナル伝達経路やメチル化の異常がどのように残存し胃癌発生に関わるのかを明らかにすることで、除菌後胃癌の発生リスクとなる因子の同定を目指している。
2.消化器癌の新たな治療標的と感受性予測因子に関する研究
近年、それぞれの患者さんに合った抗がん剤を選ぶ“個別化治療”を目指し遺伝子パネル検査などの取り組みが進められている。消化器内科においては、この個別化医療に向けた取り組みとして、膵癌、胆道癌、食道癌と診断や治療経過の評価を行う治患者さんから採取したがん組織の一部をオルガノイドという培養技術を用いて培養し、より効果の高い抗がん剤や、その効果を予測することができるバイオマーカー、新しい治療標的の探索を行っている。
3.炎症性腸疾患における低侵襲な検査方法を目指した研究
潰瘍性大腸炎やクローン病など炎症性腸疾患の治療において、腸管の炎症や重症度の評価が非常に重要となる。しかし、時として病態評価のための内視鏡検査が腸管の負担になる場合がある。SLPIは腸管上皮細胞に炎症刺激が生じた際に分泌される物質(ペプチド)であり、血中や便中におけるSLPI濃度が炎症性腸疾患の重要度を反映するかをマウスモデルおよび臨床検体を用いて明らかにすることで、炎症性腸疾患の診療においてより低侵襲な病態の評価方法への応用を目指している。
アピールポイント(技術・特許・ノウハウ等)
・臨床講座(消化器内科・消化器外科)と基礎講座(分子病理学講座・感染予防学講座)で協力した研究
・組織培養(オルガノイド)技術を導入した研究(従来の細胞株を用いた研究よりもより生体に近い結果が得られる、また個々の患者でそれぞれの培養株が樹立でき個別の解析が可能)
・遺伝子改変動物を用いて生体内での働きを検証する分子生物学的手法
応用可能な分野
・癌の早期発見/早期診断
・新規抗がん剤開発
・炎症性腸疾患診療における非侵襲的検査法